『自治体文化行政レッスン55』を読んだ青山学院大学総合文化政策学研究科の大学院生が、横浜市文化観光局文化振興課の鬼木和浩氏にインタビューを行いました。

この記事では、インタビュアーである学生二人の「生の言葉」で、その様子をご紹介させていただきます。前半は吉田、後半は吉原がご紹介します。

聞き手:吉田悠乃・吉原綾乃(青山学院大学総合文化政策学研究科修士課程)

 

Q1.なぜ横浜市職員を選びましたか?

A1.公務員一本に絞って試験に臨んでいたところ、両親の故郷でもある横浜市に合格をいただけたから。

大学3年生になり周りの友達が就活活動を意識し始めていた頃、一般企業を受ける人が多い中、鬼木さんは「自分はガツガツいく性格じゃないし、体力にも自信がないから恐らく営業職には向かないだろう」と思い、転勤も少ない公務員一本に絞ることを決意した。そして、横浜市以外にも幾つかの地方行政団体の試験を受験し、そして見事合格し、両親の故郷でもあった横浜市役所に、昭和63年に入庁した。

 

――実際入ってみてどうでしたか?

幼い頃から音楽が好きだったという鬼木さんが入庁最初に配属されたのは、なんと文化行政のお仕事だった。鬼木さんはこの当時を振り返って、忙しい日々ではあったものの楽しく、「まさに天職だと思った」と語っている。

  • 鬼木さんによると、当時の面接ではとんちんかんに答えてしまったりなど、やらかしてしまうことなどもあったそう。今の落ち着いた雰囲気からは考えられなかったので、驚きました。(吉田)
インタビューの様子(撮影:中村美帆(青山学院大学総合文化政策学部准教授))

 

Q2.文化行政の仕事が鬼木さんのライフワークとなった経緯を教えて下さい!

A2.色々な部署での仕事を経験した後、文化行政の主任調査員に推薦され、18年間文化の仕事に携わることになった。

 

――主任調査員になった時の気持ちはどうでしたか?

ほっとした気持ちと、専門職として頑張らねば…という気持ちでした。

 

――仕事をする上で楽しいと感じる瞬間は?

外からは見えづらい裏方のそのまた裏方のような仕事であるが、出来上がった時の達成感や、お客さんの反応に触れると嬉しく感じますね。

 

――他の部署での発見はありましたか?

経理の仕事はきつかったが、学びが多く、その時の経験が今にも生きてきていると感じます。滞納整理の仕事では、中々ない経験を沢山させてもらい、面白かったです。また、クレームなどに対応するメンタルは、ここで鍛えられたと思います。

 

  • 文化行政は花形のような部署のイメージがあったので鬼木さんの「文化行政の仕事は裏方のそのまた裏方」という言葉が印象的でした。他の部署での様々なお仕事の話も大変興味深かったですが、お話を聞いていて、なるべくして主任調査員になられたのだなと、改めて感じました。(吉田)

 

Q3.文化行政に関わる中で、一番苦労されたことは何ですか?

A3.一番苦労したことはクレーム対応ではありません。

特に大変だったのは、外部からの依頼で急遽開催が決まったチャリティーコンサートの仕事でした。チャリティーということで、役所のお金を使うことができませんでした。そのため、非常に苦労しました。

基本的に自らがやりたい仕事よりも、外部から持ち込まれる仕事で苦労する場合が多いです。「(抽選ではなく)優先的に会場を使いたい」や「市から資金を出してほしい」などの困難な要望の場合もあります。

私の仕事はサッカーでいうディフェンダーのようなもので、ゴールに入れさせないように守っているというのが仕事の大部分です。そこにやりがいを感じており、持ち込まれたものを見極めていくことが重要になります。

 

Q4.鬼木さんが考える今後の文化行政の一番の課題は何ですか?

A4.沢山ありますが、一つに絞るなら、「文化行政に携わる自治体職員の質を高める」ことが、今考える一番の課題です。

『自治体文化行政レッスン55』の根底にもありますが、自治体職員が文化行政に関わる中であまりお手本がなく、全国の皆さん手探りでやってらっしゃいます。他のジャンルの経験を当てはめようとしても難しく、現在はなかなか質を上げていく手段がないように思っています。そして、自治体職員同士の交流は少なく、仕事を自らのものにするのには部署異動のまでの三、四年では少し短いと感じています。そのため、学んでくれる自治体職員が増えたらいいなと思います。最初の半年で「文化というものは何かを意識すること」や「文化の特性について」を学んでもらうのが一番です。

必ずしも希望通りにならないこともありますが、横浜市の場合は次の部署の希望をいうことができます。私自身も言い続けたことが良かったのかもしれませんが、文化行政の仕事に戻ることができました。

また、行政は文化を作るのではなく、文化を支える人を支える人の立場であり、すべてを決めることができません。なので、目配りを広くし、広義でのコーディネーターを自治体職員が上手く行っていく必要があるということが、その他の課題としても挙げられます。

 

Q5.文化行政を志す方へひとことお願いします!

A5.知識・技術・能力はそれほど必要ないですが、「文化を愛すること」ができるかがその人の仕事を左右し、欠くことができない要素になります。「文化」があって「社会」があると私は考えています。「文化を愛する人」には幅広い方と連携できる共通基盤があると思います。

 

  •  これまで、文化行政に携わる自治体職員の方からお話を伺う機会がありませんでした。今回、鬼木さんにお話を伺わせていただき、行政の立場から支えて下さる自治体職員の方々がいらっしゃることで「文化」が守られているということを強く感じました。私自身も多様な「文化」に触れる時間が好きで、これまでに様々な文化活動に参加してきました。鬼木さん方のような職員の方々が、見えないところでも文化を支え続けて下さっていることに感謝の気持ちでいっぱいになりました。人類が築き上げてきた「文化」をみんなで守っていきたいです。今後も幅広い視野を持って「文化」に触れ、私自身も微力ながら「文化」支えるお手伝いができればと思います。(吉原)
夕暮れ時の横浜(ランドマークタワーとYOKOHAMA AIR CABIN)(撮影:吉原綾乃)